ホテルやサロン、店舗に漂う高級感のある香り。その正体はアロマかもしれません。植物から抽出された天然のエッセンスであるアロマオイル(精油)は高い美容・健康効果を持ち、医療現場でも活用されています。こうした効果を利用して心と体のバランスを整えるアロマテラピーは、古くから世界中で親しまれてきました。アロマの美容・健康効果はどのようなメカニズムで起きるのでしょうか。また、自宅で簡単にアロマテラピーを行うにはどうすればいいのでしょうか。文献をもとに調査し、まとめてみました。
ライター紹介

大住 奈保子 Nahoko OSUMI
美容ライター。愛読書はVOCEとMAQUIA、試したコスメは数知れずのアラフォー。話題の美容法はまずやってみる主義で、レポート記事を量産している。最近の悩みは目じりのシワと顔のたるみで、美容医療にも興味津々。
アロマが美容・健康にいいのはどうして?
アロマと合成香料の違い
「アロマの香りって、香水や化粧品よりも癒される……」そう感じたことはありませんか。じつは天然由来の精油は、洗剤や化粧品、食品などに使われる合成香料とは分子構造がまったく異なります。この分子構造のおかげでアロマオイルの成分が身体に取り込まれ、吸収されていくのです。一方で、合成香料はあくまで香りを楽しむためのもの。香りで高い美容・健康効果を得たいなら、合成香料よりもアロマを選ぶのがよいでしょう。
アロマが美容や健康にきくメカニズム
それでは、アロマオイルの成分はどのように体に取り込まれ、吸収されていくのでしょうか。その経路は大きく「鼻から脳へ」「肺から全身へ」「皮膚から全身へ」の3つです。
1つめの「鼻から脳へ」は、普段から香りを楽しんでいる人ならイメージしやすいでしょう。鼻や口から吸い込んだアロマオイルの成分が電気信号となり、感情や記憶をつかさどる大脳辺縁系や、自律神経系やホルモン系などをコントロールする視床下部に届きます。その後、脳が全身に指令を出し、リラックス効果や健康効果を与えるのです。この経路では脳を刺激するため、自律神経のバランスを整えたり、免疫力や内臓機能、認知機能の向上、感情のコントロールなど幅広い効果が期待できます。
2つめは「肺から全身へ」です。鼻や口から取り込まれたアロマオイルの成分は、やがて肺へと到達します。そして肺胞を囲む毛細血管から血液に取り込まれ、全身をめぐっていきます。3つめは「皮膚から全身へ」です。アロマというと鼻や口から取り入れるイメージが強いかもしれませんが、抗炎症や抗菌、鎮痛などの効果を期待するときには皮膚に塗るほうが有効な場合もあります。皮膚に塗られたアロマオイルの成分は毛細血管から血液に取り込まれ、やはり全身へと届けられます。
アロマにはどんな効果がある?
アロマテラピーにはリラックス効果のほか、集中力・記憶力アップ(仕事や勉強の効率を上げる)、美容・スキンケア効果、健康維持・免疫力向上にも効果的です。
リラックスしたいときにおすすめのアロマ
質のよい眠りに導く「ラベンダー」
美しい紫色の花をつけ、古来より愛されつづけるラベンダー。フローラルで優しく、上品な甘さのある香りが特徴です。時間とともに、ぬくもりのあるウッディな香りへと変化します。
ラベンダーに含まれる「酢酸リナリル」という成分は鎮静作用が強く、特に睡眠改善に効果的です。なかなか寝つけないときには枕元にアロマオイルを垂らしたり、寝室にディフューザーを置いて香らせたりすると、自然に心地よい眠りへと誘ってくれます。
心を穏やかにしてくれる「カモミール」
可愛らしい白い花と甘く優しい香りが特徴のカモミール。古代エジプトやギリシャでは薬草として重宝された歴史もあります。フルーティーな甘さの中にもハーブ特有のほろ苦さを感じる香りが、リラックス感を深めてくれます。
カモミールの甘い香りのもとは「アンゲリカ酸エステル」という成分です。この成分は鎮静作用、筋肉の緊張緩和作用、抗けいれん作用にすぐれ、日常生活でたまったストレスや緊張をリセットするのに最適です。おやすみ前にアロマキャンドルを焚いたりアロマディフューザーで香らせるほか、カモミールティーとして楽しむのもおすすめです。
「ベルガモット」で緊張をほぐしてリラックス
酸味が強い果実をつけるベルガモットは、柑橘系の爽やかさとフローラルな甘さが調和したフレッシュで上品な香りで知られています。時間が経つとほんのりスパイシーであたたかみがある奥行きのある香りへと変化していきます。
ベルガモットには気分を明るくする「リモネン」や不安や緊張をやわらげる「酢酸リナリル」、抗菌作用や抗炎症作用のある「リナロール」などの成分が含まれています。リラックスとリフレッシュを同時に叶えられるので、朝の目覚めや仕事の合間にピッタリの香りです。
ベルガモットは光毒性のある「ベルガプテン」という成分を含むため、アロマオイルを肌に塗っているときは紫外線を避けましょう。また、強い精油成分が含まれているため、身体がデリケートになる妊娠中や授乳中は使用を控えるのが安心です。
仕事や勉強の効率を上げたいときにおすすめのアロマ
記憶力と集中力を高める「ローズマリー」
シャープですっきりとした香りで知られるローズマリー。鼻にスッと抜けるような感覚がリフレッシュ効果をもたらし、仕事や勉強で集中したいとき、眠気を覚ましたいときに重宝する香りです。
ローズマリーには頭をすっきりさせる1,8-シネオール、刺激的でシャープな香りを持つカンファー(樟脳)、抗炎症作用や気分のリフレッシュ効果をもたらすα-ピネンなどの成分が含まれています。勉強や仕事の前に香らせると成果アップをサポートしてくれます。
ローズマリーの香りは強い刺激をもたらすため、高血圧やてんかんなどの持病がある方、妊娠中や授乳中の方は使用を控えましょう。そうでなくても、はじめて使うときは少量からスタートして身体を慣らしておくと安心です。
気分をリフレッシュさせてくれる「ペパーミント」
清涼感のある爽やかな香りと味わいが魅力のペパーミント。香りをかぐと鼻をスッと抜けるようなメントール感、肌に塗るとひんやりとした独特の刺激があります。時間が経つと、ハーバルな深みややわらかな甘さを持つ香りへと変化。暑い季節のクールダウンにピッタリの香りです。
ペパーミントには鼻づまりや頭の重さを和らげるメントール、清涼感をもたらすメントンなどの成分が含まれており、集中力をアップしたい大切な仕事の前や、勉強の合間のリフレッシュに最適です。ほかにも消化を助けたり鼻づまりを解消したりという効果もあり、毎日の体調管理にもおすすめです。
メントールを多く含むペパーミントは、肌に刺激を与えることがあります。敏感肌の方やお肌の調子が不安定なときはキャリアオイルで希釈し、目のまわりなどデリケートな部位を避けて使用しましょう。また、刺激に弱い小さなお子さまや妊娠中・授乳中の方も使用を控えたほうが安心です。
キレイになりたいときにおすすめのアロマ
ニキビ予防やメンタルケアに最適な「ティーツリー」
細長い針状の葉を持ち、すぐれた抗菌作用で知られるティーツリー。クリーンで清涼感のある香りが、深い森の中にいるような気分にさせてくれます。時間とともにウッディでやわらかな香りへと変わり、心と身体のリフレッシュにもピッタリです。
ティーツリーにはすぐれた抗菌・抗ウイルス作用で知られるテルピネオールが含まれており、スキンケアに使うとニキビの予防効果が期待できます。また、γ-テルピネンには空気の浄化作用があり、お部屋の消臭にも役立ちます。免疫力を高めてくれるため、風邪やインフルエンザを予防したいときにも重宝するでしょう。心身をリフレッシュするだけでなく、健康維持にも役立つ万能な精油。それがティーツリーなのです。
スキンケアに使用するときは必ずキャリアオイルで希釈し、事前にパッチテストを行いましょう。また、ホルモンに影響を与える可能性があるため、妊娠中の方、特に心身がデリケートな妊娠初期は使用を避けることをお勧めします。ペット、特に猫はティーツリーの香りに敏感です。刺激を与えてしまう可能性があるので、使用する場合は十分な換気を行ってください。
甘い香りがホルモンバランスを整える「ゼラニウム」
南国の花らしく甘い香りで知られるゼラニウム。ローズのような華やかさとハーブ特有のさわやかさが絶妙に調和しており、気分を明るくしてくれます。
ゼラニウムには鎮静作用のあるシトロネロールや、華やかな香りでリラックス効果をもたらすゲラニオールなどの成分が含まれており、女性のホルモンバランスをととのえることで知られています。気分の浮き沈みが激しいときやお肌の調子が不安定なとき、生理前後の不調に悩んでいるときの強い味方になってくれるでしょう。スキンケア効果も高く、ニキビ予防や乾燥肌対策に使うのもお勧めです。
ホルモンバランスに作用するため、妊娠中の使用は控えましょう。香りが強いため、体調が安定しているときでも少量から試して徐々に量を増やしていくのが安心です。スキンケアに使うときは必ずキャリアオイルで希釈し、事前にパッチテストを行ってからにしてくださいね。
アロマは心と身体のバランスを整えるすばらしいツールです。目的に応じた精油を選んで、日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。香りを通して自分をいたわり、心身の状態を知ることで、内側からにじみ出るような「自分らしい美しさ」を身につけられるはずです。
参考文献
- バレリー・アン・ワーウッド『アロマテラピーのすべて:植物の力で心と体を癒す』
- ジャン・バルネ『アロマテラピーの科学と実践』
- ロバート・ティスランド & ロドニー・ヤング『Essential Oil Safety: A Guide for Health Care Professionals』
- パトリシア・デイビス『アロマテラピー・アブソリュートバイブル』
- 日本アロマ環境協会(AEAJ)公式サイト https://www.aromakankyo.or.jp/
- PubMed(アメリカ国立医学図書館) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/
- Moss, M., Cook, J., Wesnes, K., & Duckett, P. (2003).『Aromas of rosemary and lavender essential oils differentially affect cognition and mood in healthy adults.』
- AromaWeb https://www.aromaweb.com/
- National Association for Holistic Aromatherapy (NAHA) https://naha.org/
- 科学技術振興機構(J-STAGE) https://www.jstage.jst.go.jp/
- 大正製薬「アロマの効果と正しい取り入れ方を医師が伝授!」https://www.taisho-kenko.com/column/131/